地域のチカラ ~伴走支援の現場~
「編むチカラ」を父から息子へ承継
事業承継には、事業を譲り渡す人と譲り受ける人の両者がいて、意見が違えばそれをすり合わせていく必要がある。一点ものの高級ニット婦人洋服を約40年以上製造してきた㈲三浅あみものセンターもその課題に向き合い、令和5年2月に父から息子へと事業承継。バトンを渡された三浅俊幸さんは、ニットをつくる技術に加え、ペットメモリアルグッズの販売強化で事業の柱を太くし、新しい会社のカタチを作ろうとしている。
▼事業継続と、新事業拡大の意見対立
「平成12年に入社して数年経った段階で、このままでは先細りしていくだけではないかと心配になった」と当時を振り返る俊幸さん。
祖父母が編み物教室を始め、父親の保則さんが法人化。丁寧で高い技術力を生かして高級ニット婦人服の製造をしてきたが、俊幸さんは危機感を募らせていた。平成15年をピークに受注は緩やかに減少。そんな時、八頭町商工会職員から事業計画策定セミナーの案内があり、当セミナーに参加。セミナーの中でペットの絵を編み込んだクッション等を提案したら、その場で欲しいと言った人がいたくらい参加者からとても好評を受けた。「これだ!!」と確信した俊幸さんは、ペット写真を編み込んだクッションを商品化し、ネット販売を始めた。
「始めた時は、なかなか父親には理解してもらえず。ホームページも自力で作ったりしましたが、営業も広告もできることには限界がありました」と振り返る。
「20年前から事業承継の話もありながら、お互いの経営方針が合わず、話をしようとしたらすぐケンカになっていました」と苦笑う俊幸さん。家族だからこその距離感の難しさがあったという。
▼お客さんそれぞれのニーズに応える
新型コロナウイルス感染症の拡大が大きな転機となった。旅行やパーティーで使用する服が売れなくなり、コロナ禍に入った令和2年の売上は前年よりも大きく減少した。状況を打開しようと、保則さんと話し合いを行い、ペットメモリアルグッズ販売を強化することを決意し、八頭町の販路開拓支援補助金などを活用し、東京で開かれたギフトショーに出展。
出展後は、新たに取引先が2社増え、翌年にはペットメモリアルグッズ事業の売上が前年よりも23%増加した。
また、コロナ禍で自社の経営を見直すきっかけとなり、八頭町商工会の濱崎主任が専門家派遣制度を活用して父親と俊幸さんのお互いの考えを話し合ってもらえる機会を設けた。
「父親からは、羊毛を作っていた曽祖父の時代から続いてきた糸の加工、商品づくりとその技術についての歴史や洋服づくりへの思いを聞け、自分も大切にしていかないといけないと感じた」と話す俊幸さんは、ペットグッズ製作で生まれた裏表の柄をリバーシブルにして編み込む技術を、洋服にも生かし始めた。
「取引先もデザインの幅が広がると珍しがってくれ、内側を別の柄にするジャケットを作るようになりました」「父もその編み方に興味を持ってくれるようになり、少しはお互いの考えがわかるようになったのかなぁ」と笑う。
令和5年2月に保則さんから俊幸さんへ無事に事業をバトンタッチ。
「理想は婦人服とペットメモリアルグッズの両輪で会社を回していくこと。時代のニーズに合わせ、いろんな挑戦をしていきたいです」と新たな舵取り役は力を込める。
▼経営支援専門員の声 東部商工会産業支援センター 主任 濱﨑 和幸
商工会への相談は展示会への出展に係る補助金活用がきっかけでした。後継者である俊幸さんを中心に事業承継を見据えた事業計画を策定し、会社の現状から経営課題と具体的な取組内容、事業承継の予定時期について「見える化」を行い、社長と共有。俊幸さんの継続する力が展示会への出展から販路拡大に繋がり、事業承継へと繋がったものと思っています。さらなる事業の飛躍を目指し、商工会は今後も寄り添った支援をしていきます。
【事業所概要】 ■事業所名:㈲三浅あみものセンター ■事業内容:セーター類製造 ■住 所:八頭郡八頭町久能寺896-33 ■連 絡 先:0858-73-0955 ■U R L:https://www.amimono.co.jp/ |
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