地域のチカラ ~伴走支援の現場~
事業所紹介2023
明治創業の旅館名物 愛され続ける大山おこわ
カラカラ、カラカラ。宿の前にある水路につけられた芋車が、音を立てて回っていた。「これに里芋や栗を入れて皮を剥くんです。今はおこわ用の栗の渋皮をとっているところです」。そう教えてくれたのは、創業明治18年という長い歴史を持つ米子屋旅館の5代目、江本由美さん。江府町内の中心部に位置し、宿と飲食でたくさんのお客さんをおもてなししてきた。コロナ禍もあって厳しい時代に会社を支えてきたのが、長年愛され続ける郷土料理「大山おこわ」。宿泊業から小売業へ、新たな可能性を広げている。
▼「待ち」から「攻め」の姿勢へシフト
「昔は、宿泊の予約がいっぱいで。それだけで今の3倍くらいは売上があったかもしれない。昭和のいい時代でしたよ」。
明治時代には、大山寺の博労座で開かれていた牛馬市に多くの人が集まっていたため、岡山方面から牛を引いてくる人の宿として栄えた宿場町。江本さんが幼い頃には、5軒宿があり(現在は3軒に減少)、近くには芝居小屋があるなど賑わった。ぼたん鍋、鯉の刺身、鮎、山菜などの料理に定評があり、官公庁や日野郡方面の工事関係者らが宿泊や宴会で利用したが、時代の変化とともに減少し、さらに追い討ちをかけたのがコロナ禍だった。
「宿泊はずっとストップしている状態です(昼食は予約のみ営業)。このままではどうしようもないと江府町商工会に相談し、これまでやってきた大山おこわの外販を売上の柱にしていこうとなりました」。
「待ち」の姿勢から、「攻め」の姿勢へ。事業の舵を大きく切ったタイミングでもあった。