地域のチカラ ~伴走支援の現場~
明治創業の旅館名物 愛され続ける大山おこわ
カラカラ、カラカラ。宿の前にある水路につけられた芋車が、音を立てて回っていた。「これに里芋や栗を入れて皮を剥くんです。今はおこわ用の栗の渋皮をとっているところです」。そう教えてくれたのは、創業明治18年という長い歴史を持つ米子屋旅館の5代目、江本由美さん。江府町内の中心部に位置し、宿と飲食でたくさんのお客さんをおもてなししてきた。コロナ禍もあって厳しい時代に会社を支えてきたのが、長年愛され続ける郷土料理「大山おこわ」。宿泊業から小売業へ、新たな可能性を広げている。
▼「待ち」から「攻め」の姿勢へシフト
「昔は、宿泊の予約がいっぱいで。それだけで今の3倍くらいは売上があったかもしれない。昭和のいい時代でしたよ」。
明治時代には、大山寺の博労座で開かれていた牛馬市に多くの人が集まっていたため、岡山方面から牛を引いてくる人の宿として栄えた宿場町。江本さんが幼い頃には、5軒宿があり(現在は3軒に減少)、近くには芝居小屋があるなど賑わった。ぼたん鍋、鯉の刺身、鮎、山菜などの料理に定評があり、官公庁や日野郡方面の工事関係者らが宿泊や宴会で利用したが、時代の変化とともに減少し、さらに追い討ちをかけたのがコロナ禍だった。
「宿泊はずっとストップしている状態です(昼食は予約のみ営業)。このままではどうしようもないと江府町商工会に相談し、これまでやってきた大山おこわの外販を売上の柱にしていこうとなりました」。
「待ち」の姿勢から、「攻め」の姿勢へ。事業の舵を大きく切ったタイミングでもあった。
▼味が染み込む栗入りの大山おこわ
一口頬張ると、広がる豊かな香り。鶏肉、こんにゃく、ごぼう、椎茸、そして栗。地元の食材がたっぷり入り、醤油味がしっかりついた大山おこわは、噛めば噛むほど口の中に旨みが染み渡るおいしさで、リピーターが多いのもうなずける。
「寒冷地である地元日野郡のお米にこだわっています。味は各家庭で少しずつ違うけど、うちのはもち米と一緒に具を混ぜ蒸して、しっかり味がつくようにしています。代々受け継がれてきた味です」。
これまでは、県内の百貨店で実演販売をしていたが、新規客を増やそうと山陰両県で約20店舗を持つスーパーと交渉して販売させてもらうことに。遠くは出雲市まで配達があり、早い日は仕込みが午前2時から始まるという。
「うちのを食べたらこれしか食べられないという人もいて、おこわを楽しみにしてくださるお客さんも多い。ずっと食べていただけるように頑張っていきたいですね」。
▼経営支援専門員の声 西部商工会産業支援センター 課長補佐 篠田 貴士
(有)米子屋旅館は30年以上前から商工会に加入しておられ、現在の代表者で5代目となります。旅館業は新型コロナの流行により経営環境が激変し宿泊、宴会の需要が見込めなくなりました。そこで、先代のころから好評であった大山おこわ、ごま豆腐等に特化し地元スーパー、百貨店等への催事出店に注力し販路開拓に繋げられました。伝統を大切にしたいとの思いに寄り添い、今後も伴走支援をしていきたいと思います。
【事業所概要】 ■事業所名:有限会社米子屋旅館 ■事業内容:旅館業 ■住 所:日野郡江府町江尾2000 ■連 絡 先:0859-75-2400 ■U R L:https://yonagoya.com/ |
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