地域のチカラ ~伴走支援の現場~
中山間地の人々の暮らしを守る“生命線”
山間部の集落に着くと、車の拡声器から演歌が大音響で流れ始めた。それを合図に家から出てきたお年寄りたち。「えんちゃん、今日は何がお勧めかえ?」 遠藤さんといつもの会話が弾む。
▼山里の人々の暮らしを守る
人口約2千7百人、過疎と高齢化が進む江府町の住民にとって「合同会社えんちゃん」はなくてはならない存在だ。JR江尾、武庫駅前にある2つの小さなスーパーは農協が撤退した後、以前勤めていた会社が引継ぎ、現在は合同会社えんちゃんが経営。江府町で生鮮を主体としたスーパーは合同会社えんちゃんのみ。中山間地の集落へは「ひまわり号」、「こまわり号」の2台の移動販売車が土日を除いて毎日まわっている。「えんちゃん」は山里の人々の暮らしを守る、いわば〝生命線〟なのだ。
▼経営安定化に向けた新たな取組
4年前、江府、日野両町を営業エリアとする店舗・移動販売の会社で働いていた遠藤さんは、会社が江府町から撤退すると聞いて、高齢化が進む町内にスーパーが無くなることは住民の“生命線”がなくなることと感じ、事業を引き継ぐことを決意。「厳しい見通しは覚悟の上でした」と語る遠藤さん。
かつて7千人近かった町人口は今や半分以下。町から高齢者の見守り活動も頼まれて喜ばれるものの、経営はやはり厳しかった。
「突破口」は思わぬ所から…。遠藤さんは移動販売車で出入りしていた高齢者介護施設から、厨房の長時間勤務や単調なメニューの悩みをよく聞いていた。
江府町商工会に話すと「ならば、経営安定化に向けて自ら介護施設厨房運営受託サービスに乗り出しては」と強い後押し。
商工会職員と事業計画を策定している中で、厨房真空調理済み食材を仕入れ、厨房で滅菌に近い加熱処理を施す最新システムの導入費用の問題が発生。商工会職員から鳥取県産業成長事業(小規模事業者挑戦ステージ)補助金を提案され、同補助金を申請し、無事に採択となり、介護施設厨房運営受託サービスをスタートさせた。「在宅高齢者への配食にも応用でき、移動販売車の販路拡大につながる」と商工会職員は話す。まさに一石二鳥の効果。
▼町内の賑わいが戻ることを期待
「冬場はつらい仕事。私が続けられる限りで…」と控えめに語る遠藤さん。
一方で、町には「新しい流れ」も生まれている。町内で働く遠藤さんの息子は、地域おこし協力隊で奈良県から来た女性と結婚した。「道の駅奥大山」を切り盛りしているのも若い移住者達。実は江府町は、豊かな自然と人情で県外移住者達に人気のある町なのである。
若い人たちが増えることで、町内に賑わいが戻ることを期待する遠藤さんである。
▼経営支援専門員の声 西部商工会産業支援センター 係長 足立 尚子
遠藤さんは、毎日移動販売車で買い物弱者へ向け江府町の隅々まで日用品の販売を行いながら、町から依頼のあった高齢者の見守り支援もされています。町内には小さいスーパー2店舗の経営もされていて、地域住民の生活にはかかせないお店となっています。高齢化や人口減少で厳しい経営状況が続くのは覚悟の上で事業を引き受けたとおっしゃる遠藤さん。遠藤さんの地域を大切にされる気持ちを尊重しお手伝いができるよう商工会は今後も持続的な経営のサポートをしていきたいと思います。
【事業所概要】 ■事 業 所 名:合同会社えんちゃん ■事業内容:スーパーマーケット、移動販売 ■住 所:日野郡江府町江尾1855 ■営業時間:【移動販売】 毎週月曜日~金曜日 巡回 【スーパーマーケット】 (平日)9:30~18:00、 (土日)9:30~17:00 ※武庫駅前の神奈川店は、土日休み ■連 絡 先:TEL 0859-82-2043(江尾店)
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