地域のチカラ ~伴走支援の現場~
伝統の刺しゅう技術とオリジナルを生み出す力
物事が長く続くために、いくつか秘訣がある。一つは受け継がれてきたものを大切に続けること。そして、もう一つは時代に合わせた新しい挑戦をし続けることなのかもしれない。刺しゅうに向き合って50年。伝統技法の継承とオリジナル製品を生み出していく行動力をもとに、今日も糸を縫う西本誠さん。
▼積み重ねてきた技術と経験
大学時代に京都でアルバイトから和装の加工技術を学ぶ。着物の半襟や帯揚げ、ウエディングドレスに僧侶の袈裟まで、細かな刺しゅう技術を習得。30代半ばで若桜町に戻り、西本工芸を立ち上げた。
京都の業者との取引からはじめ、学生服や企業向け制服のロゴマーク刺しゅうなどの仕事の幅を広げていった。中でも、針に通らないほど太い糸を使い、裏表を逆にして縫う「裏駒」は今や希少な技法である。「何せ裏側から見ずに縫うから、ほとんど勘。手加減とかわずかなテンションの動きを感じ取って縫わなければいけません」と話す西本さんの顔は技術への自負が滲む。
▼作業効率化とオリジナル刺しゅう
数年前に息子さんが事業承継したいと業務に従事することになった。「息子が帰って来た時は、嬉しかったですね。」と話す西本さん。ただ、息子のためにも現状のままではいけないと思い、新たな挑戦に打って出た。
若桜町商工会の垣田係長に現状を伝え、今後の事業展開を相談。垣田係長の助言を受けながら、現状分析していく中で、作業効率化と品質向上をさせる生産体制を確立することが必要であると考え、鳥取県版経営革新総合支援補助金を活用し、高性能刺しゅう機を導入。1分間に縫える回数が450回転から900回転に倍増し、「作業効率や精度が上がっただけでなく、データを自社で微調整できるようになり、仕事の幅も広がった」と話す。
▼新たなサービスへ
次の展開として始めたことは、オリジナル刺しゅうサービスの開始である。個人顧客から持ち込まれたデザインや自社オリジナルデザインが編集できるソフトを導入。サービスをPRするため、小規模事業者持続化補助金を活用し、自社ホームページとパンフレットを製作してPR活用に注力した。
その結果、知り合いの仲間や個人顧客からの注文や新規取引先からの受注があり、仕事の幅も広がり、新たな販路先が増加。今では、マスクの刺繍や若桜町の観光グッズなども手掛けている。
「昔から人が好きで、仲間を作るのが好きだった」と話す西本さんは、多くのサークルや団体を作り、輪を広げる人である。そういったつながりからグッズ制作を頼まれることもあり、それが次のアイデアを生むこともある。やりたいと思ったらすぐにしたい性格の西本さんの行動力は、止まることを知らない。
▼経営支援専門員の声 東部商工会産業支援センター 係長 垣田 裕子
刺しゅう機の設備導入と刺しゅう作成ソフトの導入を機に支援が始まりました。代表者の西本さんは常に新しいことへチャレンジする姿勢を持ち、コロナにより業績不振になりそうな時も前向きに捉え、新たな方向性を検討されました。補助金を活用し作成したパンフレットは、西本工芸のイメージが伝わるものとなり、新たな販路開拓へ繋がり、担当者として嬉しく思います。今後も身近な相談者として伴走支援を行っていきたいと考えております。
【事業所概要】
■事 業 所 名:西本工芸 ■事業内容:学生服や企業の制服のロゴマーク等の 刺しゅう着物の半襟や帯揚げ等の和装 小物や僧侶の袈裟の刺しゅう ■住 所:八頭郡若桜町若桜955 ■連 絡 先:TEL0858-82-1234 ■U R L:http://em-nishimoto.com/
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